京浜東北線の西川口駅の西口に降り立った私は、かつてのこの街の姿を懐かしみながら1軒の居酒屋に入った。
西川口
この言葉を聞いて胸が熱くなるという風俗ファンの方々も多いだろう。
この法治国家日本において、完全に性風俗の無法地帯とも言うべき「本番地帯」として一世を風靡した西川口。
飲み屋街、ギャンブラーの街、そして色街というか性の無法地帯。
まさに男の憧れ「飲む・打つ・買う」が揃った街だったのだ。
しかし、比較的若い風俗ファンの中には「西川口って???」という人も多いと思う。
・・・なにやら若い男に誇らしげに語る男の姿が。
私は若い男に話しかけた。
飛田シンジとその取り巻き達はいぶかしげな表情で私を見る。
「お客さん、その人・・・」
居酒屋のマスターの声はシンジたちには届いていないようだ。
俺の名はキッコー万太郎。平成最後の傾奇者さ。」
取り巻きの一人が私に気づいた様で、シンジになにやら耳打ちをしている。
西川口について聞きたいかい?私は当時をよく知っているよ。
平成維新、とでも言うべきあの事件がなけりゃ、西川口はそりゃいい街だった・・・」
私は思い出を語るようにシンジたちに話し始めた。
そうだ、どうせならみなさんにも、「あの頃の西川口」の話に付き合ってもらいましょうか。
今回は西川口が風俗街を実際に記者としてレポートしたことがある、私「キッコー万太郎」が全盛期、崩壊中、崩壊後、そして現在に焦点を当てて話させていただきます。
男の憧れ「性地 西川口」壊滅前、無敵の無法地帯
かつての西川口は本当に性の都とも言うべき街でした。
歌舞伎町が表向きの性都であれば、西川口はまさに「裏」。
かつて若かりし頃、18歳のおねーちゃんと普通に、当たり前のように本番できた街であり、「NK流」という言葉の語源にもなった街なのです。
え?
NK流ってなに???ですと?
西川口に乱立していたのは「ピンクサロン」、通称ピンサロでした。
ピンサロのイメージって、今も昔もそこまで変わらないけど、とにかく安くおねーちゃんが抜いてくれる場所、なのですが、ここ西川口では「NK流」という、まるで北斗神拳の流派のような素敵な呼び名がありました。
西川口で受け継がれたNK流とは、簡単に言ってしまえば「本番」サービスなのです。
格安で本番サービス、絶対無敵のNK流
ピンサロなんて、フェラチオでヌいてもらうだけの安風俗のはず、それがここ西川口では6000~10000円程度のピンサロで
という地域だったのです。
もちろんその当時も「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」いわゆる「風営法」で本番は禁止されているのですが、なぜなんでしょうか…西川口に関しては黙認状態だったわけです。
街を歩けばピンサロの客引きの威勢のいい声と、酒臭いおっさん、川口オート帰りの新聞握りしめたおっさんがやたら目に付く街でした。
今では考えられないですね。
粗末なソファーとよくあるガラステーブルが置いてあり、カーテンで仕切られた狭い個室の中でおねーちゃんと本番が格安でできる。
まぁ、シャワーとかはないのですが、「ただヤルだけ」の空間とその安さから、飲んだ帰りのサラリーマンや、オートレースで勝った客、労働者や学生などのちょっとした贅沢には十分すぎるものでした。
全盛期には公称200店舗近くとは言っていますが、実際には無許可営業もかなりの数あったはずなので、それ以上のお店で当たり前のように本番できちゃった訳です。
そりゃ、男の楽園でした。
でも、日韓W杯で日本中が熱狂していた翌年2003年に風営法が改正され、「おまわりさん」の締め付けが厳しくなってきました。
かつて仲良くしていた警察官の友人がよく口にしていた文句もこのあたりを境に聞けなくなっていきました。
そして何よりも、当時の石原慎太郎元東京都知事がやって効果を挙げた(?)「浄化作戦」の波が各地に伝播し、ついに西川口に及ぶことになっていきました。
性地崩壊 なぜ性の都は簡単に陥落してしまったのか
歌舞伎町から始まった浄化作戦の波は関東圏内の様々な性地へ飛び火していきました。
かつて、江戸時代に頻繁に行われた「改革」のように、浄化の名の下に大規模な摘発が相次いで行きました。
当然、法律の下に行われる摘発なので、
「悪いことをしてるのはどっちだ!」
と言われれば何も言い返すことはできません。
これによって、通常に法の下に健全経営をしていた店も「ダイナミックな動き」ができなくなり、次第に「性風俗産業」自体が「面白味のない産業」に変わっていく事になりました。
200店舗以上の「違法店」を抱えていた西川口も、2005年の大規模摘発によって大打撃を受け、無許可店は当然閉店、「NK流」のピンサロも立派な風営法違反・売春防止法違反で見せしめの如く摘発・閉店。
幸か不幸か難を逃れた店も西川口から撤退、あっという間に性都西川口は空き店舗だらけのゴーストタウンのような町に様変わりしてしまいました。
もちろん、地下に潜ってひっそり営業は出来なくはないはずでしたし、この街のポテンシャルなら出来たはずでした。
街の崩壊と共に街に寄り付かなくなった嬢
連行される経営者の姿、同時に連行される働いていた女の子たちの姿。
「風俗で働きたいけど、バレたくない」という悩みを抱える女の子たちにとって、その姿はどう映るでしょうか。
答えは簡単、
「捕まりたくない!」。
これによって、「おまわりさんから睨まれた街」で働く働き手もいなくなって行くのでした。
リアルタイムでこの衰退劇を目の当たりにした私は、何ともいえない空虚な気持ちに襲われました。
全盛期を思えば、街を歩く人々の姿も格段に減り、「健全化」を叫んでいた街の人たちも経済的な打撃を受け、長い「不況の波」に襲われ次々にシャッターが閉まっていく異常な光景が広がった街。
睨んでいたはずの「おまわりさん」すら利用していた街が崩壊した瞬間でした。
浄化された西川口、「きれい過ぎる水には魚は棲めない」と言いますが、
崩壊から再生へ たくましき男たちの行き着いた先は・・・
こうして、砂上の楼閣が崩れ去るように風俗街からシャッター街に変貌した西川口。
再生への道のりを語れるほど私は都市計画の専門家でもないので、現在に至る姿は後述するとして、風俗目線でひとつ切り込んでみようと思います。
だって、ヨソのサイトでいくらでも「西川口の現在の姿」なんて書いてあるし、街の姿に興味がある人ってそんなに多くはないでしょうし(笑)
それ以上に、そんな夢のような街がありましたとさ、なおとぎ話、いくらでも他の人に話してもらって(笑)
それを知れるのって、その当時から修羅場をくぐってきた人間だけですからね。
最大の謎は、
「摘発を逃れた店はどこへ消えたのか」
西川口陥落後の私は「その後」の店を追跡していました。
追跡の前に一つ予備知識として触れておきます。
デリヘルについて
現代の風俗のスタンダードとも言うべき「デリバリーヘルス」、通称デリヘル。
このデリヘルが法律上認められるようになったのって、いつからだか皆さんは御存知でしょうか。
昔から女性を派遣する形は「ホテトル」の名で行われていました。
主にヤクザやさん直営で女の子をホテルの部屋に連れて行き、
「ホテルでトルコ風呂(昔の呼び名で、現在ではソープランド)のプレイができる」
略してホテトルという形で当然違法。
しかし、風営法に「デリバリーヘルス」という形で世間に登場するのは、なんと1998年、つい最近だったんですね。
ソープランドや店舗型ヘルス(通称箱ヘル)、ピンサロなどと劇的に違う点が
- 店舗を持たない
- 営業時間の制限がない
これにより全国的に新規参入店が一斉にデリヘルへと参戦、今の時代に繋がって行きます。
これに対して、デリヘル以外の風俗は実質新規開業ができなくなりました。
ひょっとすると、98年の改正の時には「浄化作戦の概要」が決まっていたのかもしれません。
話しを元に戻し、西川口のその後を辿っていた私は驚くべき逞しさを感じることになったのです。
ある店舗はそのまま北上し、熊谷を拠点に移し「NK流」の店を展開していたのです。
北関東を拠点にした店舗
当然違法店なので、店名を伏せインタビューをすると、その人は目を細めて喜び、
と近くの居酒屋に移動し、かつて西川口の利用客がそうしていたように、昼間からビールを飲みながら顔を赤らめ、嬉しそうに話してくれた。
思い出話で気をよくしたその男は立て続けに喋り続けた。
確かに浄化作戦以降、各種広告媒体でも届出を提出しないと掲載しないというものは増え、現在ではほぼ100%近くが無許可店の広告掲載をしていない。
男はそこまで喋りきるとビールのおかわりを注文していた。
うん、懲りてないな(笑)と思いながらも、在りし日の西川口の話は尽きることはありませんでした。
デリヘル業態に鞍替えした店舗
また、別の店舗は驚くべき転身をしていた。
越谷の雑居ビルにあるオフィスの会議室で、きちっとしたスーツ姿で名刺を差し出してきた男、かつて西川口で摘発スレスレだった店の男であった。
深々とお辞儀をしてきたこの男、昔たまたま私が(キッコー万太郎)取材で行った際に「近々西川口で摘発入るみたいだよ?」と世間話をしたことをこのTは覚えていたのだ。
確かに、Tの差し出してきた名刺に書かれたこのグループは風俗業界では、特に埼玉エリアでは有数の名の通ったグループ店だ。
その当時の同業の何店かも同様にデリヘルに鞍替えして西川口を離れたんだとか。
笑顔で応えたその男を見て、「やっぱり懲りてないな(笑)」と感じた。
先に述べた男も、この男も、「いい意味で」無法地帯で生き抜いてきた「たくましさ」を感じた。
西川口ではない場所で、細々と、しかし、脈々と「NK流」は生きていたのだ。
外国人街となった西川口、そして・・・
さて、西川口に話しを戻そう。
そう言ったたくましい男たちが去った西川口はどうなっているのか、しばらくぶりに足を運んでみると・・・
なんと空いていた店に外国人が入り、中国語・韓国語・ちょっとよくわからない言葉が飛び交う外国人街に変貌していた。
もちろん、現在も「許可店」として箱ヘルやソープなどが並んではいるが、かつての面影はもうそこにはなかった。
ソープでの取材を終え、かつてたくましき男たちが無許可営業をしていた店の跡地の中国人がやっている中華料理屋に入り、全品500円と書かれたメニューから何品か頼み、かつての街の面影をダブらせながら、昼間からビールを飲んだ。
キレイになった西川口は外国人街に、この浄化は果たして正しかったのか。
そんなことは私にはわからない、きっと後々歴史が証明していく事になるのだろう。
シンジくんとその取り巻き達は食入る様に私の話しに耳を傾けていた。
居酒屋のマスターが懐かしそうに微笑みかける。
私もマスターに視線を返す。
マスターの言葉の重みを感じながらシンジ君たちに視線を移す。
シンジくんの顔からは笑顔が消え、真剣な「漢」の目になっていた。
シンジくんの熱意とまっすぐな視線に何かを感じた私が訪ねると、彼はきっぱりとこう言い放った。
思わずズッコケそうになったが、ここまで不純な意見を純粋に言えるのも、彼が何かを持っているのかもしれない…
これが、平成最後の傾奇者 キッコー万太郎と飛田シンジの出逢いだった。
だが、それはすべての始まりに過ぎなかった。
不純な願望を真っすぐ告げるシンジ、万太郎は彼に秘伝の見分け方を伝授する決心をさせる。
次回、「本番できる嬢の見分け方~見知らぬ天井。」この次も、サービスサービスゥ!